2013年4月27日土曜日

MRI事件で不思議なこと

途中から新規購入資金が解約資金に回ったという点はAIJ事件と全く同じ。

最大の違いは顧客が個人投資家だった点。
MRI日本法人は金融商品取引法上は第2種金融取引業者であり、定期的に金融庁検査を受けるし、関東財務局には事業報告を行っている。

プロ相手の金融取引業者の検査が年に5件ぐらいのペースで、一回りするのに20年かかることがAIJ事件では問題視されたばかり。その際に金融庁は、プロではなく個人投資家相手の取引業者を重点的に検査しているためとしていた。

この辺の不整合を今回はどう説明するのであろうか?

集めた資金量
診療報酬という債権を買取り回収代行するといういわゆる債権回収代行ビジネス
仕組み自体は単純
このビジネスの資金をわざわざ「日本」でしかも「円」で調達するという不自然なビジネスモデル

普通に考えても、重点検査対象先になると思うのだが。

2013年4月26日金曜日

民主党の税と社会保障一体改革を振り返る

 年金財政が厳しさを増すなか、よく聞かれるようになった言葉が、「社会保障と税の一体改革」です。なぜ「一体改革」なのか。年金改革はどうしても負担増が避けられないため、同じく負担増が避けられない社会保障全体でバランスを考える必要があるからです。
 
 このため、政府はこれまでも年金問題については単独での議論を避け、社会保障全体と税制を含めた議論としてきました。妥当な考え方ではありますが、具体化には相当なエネルギーが必要です。

 安倍政権になって動きが全く見えなくなってしまいましたが、民主党は一応目に見える形で取り組む姿勢は見せました。
 
 民主党の「社会保障と税の一体改革」をめぐる一連の動きは、2011年のはじめに当時の菅直人首相が与謝野馨氏を経済財政政策担当大臣として入閣させ、社会保障の改革を担当させたところから始まっています。2011年2月からは、その与謝野大臣を中心に「社会保障改革に関する集中検討会議」が始まりました。
 
 この会議の議長は菅首相でしたが、実際の責任は全て、議長補佐であった与謝野大臣に丸投げされていました。途中、2011年3月に東日本大震災が発生して審議が一時中断したときには、その存続も危ぶまれましたが、その後10回の議論を経て、なんとか2011年6月に「社会保障改革案」をまとめあげました。
 
 直後の7月1日に、「社会保障・税一体改革成案」は閣議報告されました。その中に盛り込まれていたのは、

・ 2010年代半ばまでの消費税率10%までの引き上げ
・ 新しい年金制度(最低保障年金・所得比例年金)の創設
・ 現行制度の改善
・ 業務運営の効率化

の基本方針です。「新しい年金制度」とは、現在3つに分かれている年金制度を一元化したうえで、一定額を保障する「最低保障年金」と所得に比例した額を受け取ることができる「所得比例年金」を合わせた制度のことを指しています。

 しかし、この成案には消費税増税の時期も示されていたため、民主党内の反発を恐れて「閣議決定」ではなく「閣議報告」とされるにとどまり、玉虫色の決着となりました。
 
 しかも、菅直人首相はこの約1か月前の6月2日に、震災の対応に「一定のめどがつけば退陣」すると明言していたため、この時点で既に菅政権は事実上死に体となっていたのです。この閣議報告は、そんな状況での置き土産となってしまい、なんとも心もとないスタートをきることになりました。これではその後の結果が腰砕けになるのもしかたないのかもしれません。この会議の中心となった与謝野大臣は、これにてお役御免となりました。

 ちなみに、この成案では企業年金については一切触れられておらず、急遽厚生年金基金の検討が開始されたのは、AIJ事件発覚した2012年2月以降でした。

 2011年9月2日に野田内閣が誕生すると、菅内閣の方針を継いだ野田新首相は、10月7日に社会保障改革推進本部を設置し、突貫工事で2011年の年末までに改革案の大枠を固めました。並行して、関連する会議もフル稼働し、成案の一部が2012年の通常国会に関係法案として提出されました。衆参ねじれ国会の中で「近いうちに衆院を解散する」という野党との口約束と引き換えに、2012年8月10日に社会保障と税の一体改革関連法案が成立しました。

 野田首相が「政治生命をかける」とまで言ったこの法案ですが、実質的な中身は、消費税率の引き上げだけと言っていいほどインパクトの薄い内容でした。インパクトが薄いだけならまだしも、消費税の引き上げがさも年金財政を改善するかのような言い回しには呆れてものも言えません。

2013年4月24日水曜日

国債がなくなる?

一番困っているのが、運用能力および貸付力の乏しい地域金融機関です。

これまでは、長期国債を買っておけば多少でも利ザヤが稼げましたが、これからはそうはいきません。

リスクをとることを求められます。

日銀の次元の異なる金融政策でマネタリーベースが2倍になります。
でも、日銀ができるのはそこまで。
景気がいい時はマネタリーベースに関係なく勝手にお金が循環しマネーストックは増えます。
逆にいくらマネタリーベースを増やしてもお金が循環しないことにはマネーストックの増加につながりません。
実際、日銀もあまりマネーストックは増えないと予測しています。
その点わりと冷静です。

じゃどうするのかというと 「期待」 ですね。
信念を持ってやれば、期待が動くというものです。

そうはいっても、少しはお金も動くはずです。
マネーストックが増加するためには、民間が借り入れを増やさなければいけないわけです。つまり誰かが借金を増やさないといけないわけです。
住宅ローン?
設備投資?
運転資金?

さてさて、一体誰が借り手になるのでしょうか?
もっともありそうなのが投資用不動産ローンでしょうか。

円安・株を維持→ 投資マインドが回復→ 不動産投資が拡大
このルートが、借入増加としては最もありそうなルートです。
設備投資にしても大企業は手元資金潤沢ですし、よほど儲かる自信があるか、金利が急上昇すると思わない限りあまり借り入れを増やさないかもしれません。でも、設備投資をすれば、そこから少しはお金が動きます。
消費税導入前の住宅駆け込み購入なんて実需もありますが量的緩和とはあまり関係ないですね。

円安の効果は輸出大企業の業績改善期待となって、とりあえずいい面が出ていますが、ぼちぼち輸入物価高も気になり始めました。
先のことは誰にもわかりません。
風が吹けば桶屋が儲かるルートがだれもきづいていないところに2つも3つもあるのかもしれません。

2013年4月20日土曜日

サタズバで年金問題

今日のサタズバで年金問題が取り上げられました。

運用利回り 4.1% 賃金上昇率 2.5%


を前提とした100年安心プラン。ムリに決まっています。アベノミクスが100年成功したとしても無理でしょう。
でも、このムリ筋はいまだに生きています。

番組で提案されたプランが

運用利回り 1.4% 賃金上昇率1%

という現実的な仮定を前提にしたうえで

2040年までに保険料を18.3%から24.5%にアップか
現在の年金支給をただちに一律21%カット

アベノミクスで浮かれている今こそ現実に向き合わなければいけないのではないでしょうか。
出演者全員がしゅんとされていたのが非常に印象的でした。

2013年4月19日金曜日

日銀の異次元の緩和は本当に正しいのか

これまでさんざん議論されましたが、私的にはいまだに不完全燃焼です。
確かに株は上がりましたし、周りの気分も少し変わりました。
以前にはなかった期待感が広がっています。

今は評価の高いクロダノミクスですが、私には黒田氏のほんとうの狙いが良くわかりません。一国民に見透かされるようでは困りものですが、崇高な目標に向かって動いていだけているか勝手に心配しています。

「目的達成のためには何でもする」という姿勢は確かにキモにはちがいありません。
しかし、インフレ2%目標はあくまでも手段であって目的ではないと信じたいです。
黒田氏が名演技を続けていると信じたいです。

でも、少し不安もあります。
それは、黒田氏を始め政治家の多くは市場の恐ろしさを知らないからであります。
最近の国債市場の乱高下も全く想定外のことだったと思います。
今のところ、ETFの買い入れも市場の下支えとしては機能しています。
しかし、このような人的な施策が予定通り最後までうまくいかないところが市場というところなのです。

私は、黒田氏がいつでも金融政策の変更を辞さない柔軟性を備えていることを切に願います。
また、インフレ2%も当面戦略上固執するとしても、めどが立ち次第いつでも戦略を変更する勇気を出して欲しいと思います。

そもそも、デフレが悪いというよりは、賃金の趨勢的な下落が悪いわけで、賃金の上昇を起こすのが政策のゴールです。それにはまずインフレを起こすしかないというのはほんとうに本当なんでしょうか。考えれば考えるほど深みにはまります。

外野でうだうだ言っているだけですが、黒田氏本人も人に言えない悩みを抱えていると信じたいです。万歳三唱で勢いづくリフレ派とは考えている次元が違うと信じたいです。

株が上がっている間は不満もないでしょうが、どうも落ち着きません。

2013年4月18日木曜日

年金問題についてアマゾンで新刊を出しました

年金問題を知ろう。シワ寄せはサラリーマンという悲しい現実 (通勤の友シリーズ)



厚生年金基金制度を廃止する方向が決まりました。

健全な基金を除いて、厚生年金基金が預かって
運用してきた国の厚生年金相当額はすべてが
国に返還されます。

不足分の大半はいつのまにか減額返済という形で
巧妙に厚生年金にまぶされることになりました。
結局つけを厚生年金本体に回すという
いつものどんぶり処理です。

このように、問題があるたびに厚生官僚は
「物言わぬサラリーマン」を食い物にしてきました。

これでいよいよ問題は本丸の厚生年金本体へと移りました。

これまでサラリーマンの厚生年金がいかに食い物にされてきたか
知らないことには何も始まりません。


■対象とする読者
すべてのサラリーマン


■文字数
約3万字
読了想定時間 約1時間

2013年4月15日月曜日

営業特金と厚生年金基金

黒田緩和でバブルが来るのか来ないのか。
いい意味でも悪い意味でも、国民の関心は高まります。
ここにきて、タンス預金を株に移す人も増え始めているようです。
いくら日銀が銀行から国債を買い上げてもそれだけではバブルにはなりません。
バブル生成の2大要素をガルブレイスは「バブルの物語」でこう指摘しています。

①時代が収益及び価値が大幅に増大するような新局面に突入し、それが持続するとみんなが信じる
②投機のムードを察知する保守的な人たちも、投機が終わる前に手を引くことができると確信して上昇機運に便乗する

確かに①のムードは形成されつつあります。8割近い国民が支持をしています。ただ、実際に景気が良くなると思っている人はまだ過半数に達していないようでありますが。

80年代後半のバブルのけん引役はにわか仕立ての機関投資家と営業特金およびファントラです。何と言っても大手4社の営業特金の存在は非常に大きかったと思います。89年末には営業特金・ファントラの残高は43兆円まで増えていました。株が89年末に高値を付けたのも、年末に営業特金の廃止が決まったということが最大の理由でしょう。

今回は、この営業特金にあたるものはありません。機関投資家も分散投資が中心で、大して株のウエートを上げるとも考えられません。この辺の違いは頭に入れておく必要がありそうです。営業特金の原資も多くは金融機関からの借り入れによるものでした。製造業が「モノづくり」ではなく「金づくりに走ったわけです。「財テク」という言葉がもてはやされました。財テクをやらない企業の経営者は超保守的とまでみなされました。

しかし、そう考えると厚生年金基金の代行制度はちっとも不自然ではなかったのもうなずけます。厚生年金基金は、国が運用するはずの年金資産の一部を借りて、基金が持っている資産と合わせて運用する仕組みです。企業年金自身が持っている資金と厚生年金本体から借りている資金の比率はだいたい基金全体で2:8です。ということは、厚生年金基金は、もともと持っている資金の約5倍ものお金を運用しているということになります。

企業が銀行から融資をうけて財テクに走ったのはバブル期の話ですが、驚くことに厚生年金基金はいまだに、国からお金を借りて財テクを続けていたのです。

営業特金は多くの膿をだして90年初頭に清算されましたが、厚生年金基金はその後も生きながらえ、ようやく今回廃止が決まると思いきや、条件付きで存続が認められたわけです。

2013年4月10日水曜日

先送りの思考

 厚生年金の問題とAIJ事件を見ていると、自分が正しいと思い込んでしまうと、それを否定するような意見を受け入れるのは非常に難しいのだということに、改めて気づかされます。
 
 傍から見ると理解しがたいことですが、浅川被告は大真面目だったと思います。大真面目なだけに彼の主張はぶれません。しかし、客観的には、滑稽な姿にしか見えません。相変わらず、自分中心の考え方は改めることはできず、もう一度投資運用業をやりたいと漏らしているようです。あり得ない話ですが、彼には自分の姿がいまだに見えてないのでしょう。

 
 巨額の年金を消失させたAIJ浅川被告は、事件発覚後も運用利回りを水増し(粉飾)したことは認めても、決して騙したのではないとの主張を続けました。衆院の証人喚問でも繰り返された、「騙すつもりはない、良かれと思ってやった」の言葉。

 
 私は、おそらく彼の本心だろうと思っています。浅川被告の目標は、彼の言うように顧客を騙すことではなく、あくまでも厚生年金基金のために安定した運用利回りを提供することだったと思います。そのために、途中で運用がうまくいかなくても、「挽回できると信じた」架空の利回りを顧客に対して示し、営業を続けました。

 
 損失も取り返せると信じ、粉飾を続けた浅川被告と同じように、厚生官僚と御用学者は、国民のために「一生懸命」考え、「良かれと思って」粉飾を繰り返し、問題を「先送り」にしているのです。

 
 こうした先送り思考は何も彼らに限ったことではありません。日本全体に蔓延する国民病みたいなものです。悪いことに、やっている本人が大真面目な場合、問題は複雑さを増し、時間が経つに従って事態はとんでもないところまで行ってしまいます。

2013年4月5日金曜日

意表をついた金融政策

かなりインパクトのある内容でした。
市場の読みを大幅に上回り、現時点でできることをすべて盛り込んだというのは、さすがでした。

普通、全部出したらまずいのじゃないかと思いますが、その辺がこれまでと違うという印象付けに成功したということです。

全部出したとしても、現実には緩和を続けるわけですから、下支え効果は続きます。特に為替と株の強力なサポートになりますし、息切れしたらまたなにかやりかねないと思わせることで、連鎖的な売込みにはつながりにくいはずです。市場との駆け引きには成功したといえるでしょう。

ピッチャーが完封宣言したわけですから、いよいよ次は打線の番です。ホームランでなくても、一人ずつ塁に出て、確実に点を取っていきたいものです。

2013年4月3日水曜日

AIJ事件と厚生年金

「とりあえず、厚生年金なら手厚いし、安心」。年金の問題がたびたび騒がれる昨今でも、こう思っている人は結構多いのではないかと思います。「未納」の問題がしばしば持ち上げられる国民年金と違い、厚生年金は確実というイメージが根強いようです。厚生年金の保険料は給料から天引きされるものでもありますし、払っているという実感があまりない方もいるかもしれません。どうせ払うかどうかは選べないし、将来戻ってくるならいいや、と思っている人もいるでしょう。

 あまり話題にされることすらない厚生年金ですから、その財政状況について知っている人など一握りでしょう。実は、この厚生年金は、国民の大多数が知らないうちに、すでに待ったなしの状態に陥っているのです。「待ったなし」というのは、一刻でも早く何らかの手立てを講じなければ、制度が維持できなくなる状態にあるということです。年金や経済の専門家などのなかにはこの状況に危機感を持ち、著書などを通じて問題を訴え続けている人もいますし、もちろん官僚や政治家も、事態の深刻さは重々ご存知のはずです。しかし、大きな事件でも起きて、国民が騒ぎだすことでもない限りは官僚や政治家が、わざわざ「触らぬ神」を国民の前に引っ張り出すことはないでしょう。大きな事件とは、例えば厚生年金基金の廃止を決定付けた、AIJ事件級の出来事です。

 AIJ投資顧問による「年金消失事件」は、新聞やテレビで大きく取り上げられました。普段、経済にはあまり関心がないという人もニュースなどで目にしたのではないかと思います。AIJ投資顧問の浅川被告は、顧客から預かった資金の運用に失敗して巨額の損失を出していたのにもかかわらず、運用がうまくいっているように運用成績を粉飾して、約10年間営業を続けました。粉飾された数字を信じてAIJと契約を結ぶ顧客は増え続け、損失額は膨らみました。金融庁の調査が入り、損失が明るみに出たころには、顧客から預かった、1500億円もの資産が、消えてなくなっていたのです。

 AIJ事件の実態は、結局、浅川被告が基準価格(純資産価値)を粉飾して営業を続けたというだけで、背景に複雑な背景やカラクリはなかったようです。むしろ、AIJ事件を増幅させた外部要因こそ白日の下にさらすべき、「深き闇」であったのです。その最たるものが厚生年金基金制度の制度疲労でした。

 AIJ事件を受けて、厚生労働省は問題のあった厚生年金基金制度を廃止する方向で動き始めました。厚生労働省にとって、AIJ事件は欠陥のある制度を放置した自身の責任を曖昧にする絶好のチャンスに映ったようです。この厚生年金基金制度には長い間に蓄積された、さまざまな根深い問題があったのにも関わらず、厚生労働省はこれまでまったく抜本的な対策を講じることができていなかったからです。

 厚生年金基金制度の廃止をめぐってはようやく結論が見えてきました。結局、厚生年金本体にまぶしてしまうというどんぶり処理です。いよいよ問題は本丸の厚生年金本体へと移ったことになります。

 これまでも、厚生年金を含む公的年金に関する問題はマスコミでも散々騒がれてきました。年金にまつわる問題というと、いろいろな報道が思い出されますが、とりわけ大きな問題を抱えていたのは、年金特別会計という伏魔殿を通じた利権の構造でした。年金官僚は複雑な制度を意のままに操ることで、事務費の流用や巨大保養施設の建設などの壮大な無駄遣いをおこない、それを長年にわたり繰り返してきました。また、その不透明な資金の流れの中に官僚OBの指定席をいくつも作り出してきました。

 ただ、これらの問題は、ハコモノという外形を伴うだけにわりと国民にも分かりやすく、マスコミで大きく報道されるたびに、官僚たちにも少しはやましさがあるのかそれを認め、問題は少しずつ解決されてきました。一方、私が問題だと思っているのは、そのような年金行政の問題ではなく、国民には問題の実態がつかめず、官僚にはやましさがないが故に一向に出口の見えない、制度の闇というべき問題なのです。

 「騙すつもりはなかった」「一所懸命走り続けた」「取り戻せると思っていた」

 顧客から預かった1500億円もの年金を消失させた浅川は、事件発覚後の衆院証人喚問でも繰り返しこのように述べました。彼自身は、悪意はなく、一時的な損失も必ず取り返せると信じてやっていたといいます。

 そんな浅川を世間はあざ笑いました。「何馬鹿なこと言ってんだ」「結果はどうなったって言うんだ」「噓こいてんじゃないよ。よくもしゃあしゃあとそんなこと言えるな」かたや大真面目、もう一方は「それを詐欺というんだよ」で議論は永遠に嚙み合いません。

 しかし、このあまりにも滑稽な光景はそっくりそのまま厚生年金の問題にも当てはまります。およそ信じがたいことに、現状もここに至るまでの経緯もAIJ事件と瓜二つなのです。

 厚生年金は粉飾されています。それは残高という意味ではなく将来の支給見通しに対してという意味です。厄介なことにそれを操る官僚たちに悪意は微塵もありません。だからこそ深刻なのです。損失も取り返せると信じ、粉飾を続けた浅川と同じように、高級官僚と御用学者は、国民のために「一生懸命」考え、「良かれと思って」粉飾を繰り返し、問題を「先送り」にし、いつか事態が好転し「取り返せる」ことを信じ祈っているのです。

 政治家は官僚・御用学者のやり方を疑いはしても、手間暇かかる改革に踏み出すよりは、官僚の書いたシナリオに乗っかっておくほうが無難だと思っています。彼らにとって大事なのは、国民の将来ではなく、政治家としての今なのです。浅川は逮捕起訴されるまで毀損した資産の問題から逃れることはできませんでしたが、官僚や政治家は問題を先送りにし、やり過ごせば、責任は問われません。

 このままでは厚生年金にAIJ事件どころではない事態が起こるのは目に見えています。何十年間も保険料を払い続け、老後の生活を年金に託す多くの国民は、年金資産の不透明な運用を続ける官僚やそれを黙認する政治家をなぜ追及しないのでしょうか。国民は彼らに下駄を預けたままでいいのでしょうか。

 悔しいことに、国民自らが年金の実態を知ろうとしても、簡単ではありません。書店や図書館の年金コーナーには「年金解説書」がズラリと並んでいますが、ほとんどは、現行の制度の中で、どうしたら年金で損をしないで済むかという観点で書かれたものばかりです。著者は、厚生労働省や社会保険庁のOB、現役社会保険労務士などの体制側であるため、内容も厚労省の説明を100%鵜呑みしたものになっています。得する年金術というミクロな視点も結構ですが、それよりも大切なのは根っこにある問題を正しく理解することでしょう。

 一部の良識ある学者は、厚生年金の粉飾や実質的な破綻を指摘していますが、その声は国民には届いていません。

「年金村」はガッチリと御用学者にガードされていて、少しでも盾突こうものならマークされて干されてしまうという事情もあり、学者はどうしても腰が引けざるを得ないのです。もうひとつの理由は、学者のレベルからは平易に書かれていても一般の人にはそれでも難しすぎるのです。そんなわけですから、書店でもせっかくの良書も目立たないところにひっそりと置かれています。

 こうした状況のなかで恐るべき公的年金の実態を国民が知るのは、いつまで経っても大変難しいのです。

 問題の根っこに、ハードランディングを避け、問題を先送りすることを許容する日本国民共通の遺伝子があります。この遺伝子は、粉飾ウイルスに耐性がありません。AIJ事件は、これから明らかになる年金問題のほんの序章に過ぎず、粉飾ウイルスはさらに猛威を振るうでしょう。

 今必要なのは、国民が厚生年金の実態を知り、先送りせずに問題と向き合って解決に向けて踏み出すことです。その一歩は年金問題の解決だけでなく、国民主権の回復、ひいては、長引くデフレからの脱却にもつながるのです。

2013年4月2日火曜日

厚生年金基金制度改革法案

厚生労働省の厚生年金基金改革法案の概要が公表されました。
自民党に最大限配慮したうえで、実質廃止の方向はなんとか貫いたようにも見えます。

厚生労働省としては一気に廃止して、この基金制度の不始末にケリをつけたいというところではないでしょうか。

少し気になる点があります。またまた、代行返上に必要な金額の計算が見直されます。これまで、後追いでなし崩し的に引き下げられてきましたが、今回はかなり突っ込みます。2012年3月時点で1兆1000億円あった不足額が約6000円億円に減ります。

5000億円の減額は計算方法を替えるだけなので、厚生年金全体で負担することには変わりはありません。

そもそも厚生年金自体が、将来の年金支給に必要な資産を持っていないとから、厚生年金基金が返さなくてはいけない金額は厚生官僚のさじ加減でどうにでもなる数字なのです。少なければ少ないほど本体にしわ寄せが行くだけです。

問題が厚生年金基金から厚生年金に移されたに過ぎないことを忘れてはいけません。